アンティークと冬青

 

寝息がきこえる距離にいたのに、一夜にして知らない人になってしまうときもあれば、限られた一夜だけを、寝息がきこえる距離で過ごすこともある。

リンドウが咲くまでに新しい自分になりたかったのだけれど、半分まで脱皮した粘着質の膜が、足に絡まりついてしまって身動きがとれない。

新しいワンピースを買った。花柄が似合う女性になりたいと思いながら、ダブルボタンでハイウエストの黒いワンピースを買った。

異国に想いを馳せながらフィガロを読むときや、濃霧の中に浮かぶ大樹を想って、くるぶしがちくちくと痛むとき。難しい言葉を使ってしまったとき。長文で褒められてしまったとき。これらはどうして虚しい。

たくさん他人を感じてしまうと、体調に障る。ココアは甘すぎる、もう白湯でいいから。整体院で、砂利のような舌触りと、ヒノキの匂いを感じたのは本当なのに。